映画のレビューというか感想です。
はいドン。
「THE WAVE(ウェイヴ)」という映画。
あらすじはというと、
とある高校教師ライナー(短大卒二流体育教師)は独裁制の一週間の実習を担当することになります。
そして1日目、生徒の一人が「独裁制とか”過去”故現代では起こりえませんぞww時代が違うンゴwww」とか言い出します。
この一言にプッツンきちゃったライナー先生は独裁制を体験する授業を提案します。ライナー先生を「ベンガー様」と呼ぶルールがこの一日目で設定されます。この日は独裁制に不可欠な”指導者”についての学習で授業を終えます。
二日目は「制服を着ること」、三日目は「実習グループの名前」(「WAVE(ウェイヴ)」という名前になります。これがタイトルにもなってますね)という風に色々なルールが追加されていく中でだんだんと生徒達の行動が変化していく…という流れでお話が進みます。
独裁制を形作る重要な要素の一つとして、”指導者”のほかに”規律”がありますが、この”規律”はたらきが非常にうまく描かれている映画だと思います。
最初はおふざけ半分だった生徒たちが、新しい規律が生まれるとともに段々と行為をエスカレートさせていく…という様が「独裁制の身近さ」を感じさせてくれます。
さらに、規律がそこまでヤバそうに見えないこと、そして何より生徒たちが「楽しそう」なのがより「独裁制の身近さ」というメッセージを強調していると私は思います。
いやホント、すごいんですよ。みんな本当に楽しそうに積極的に行動してて。みんなで話し合って、グループの名前考えて、ロゴやステッカー作ったり。独裁制を肌で感じちゃってますよ。理想的な学びじゃないかコレ。どっかの国のお通夜みたいな授業とは大違いですよ。
しかしだから怖い。だから恐ろしい。
そしてもう一つこの映画の重要なキーワードとして、「平等という魔力」という言葉があるのではないかと私は思います。
舞台が「学校」という色々な人間が集まる場所ですので、当然一人一人に色々な背景があるわけですね。だからそれぞれにうまくいかないこと・不満・欲求があるわけです。独裁制の起こる条件として「政治不満」「民衆の欲求不満(Hな意味じゃないよ)」などがあるということを授業で学んでいるわけですが、生徒それぞれの本当にささいな、個人的な欲求や不満が、皮肉にも彼らをエスカレートさせる原因となります。
独裁制の中では、”規律”に従いさえすれば認められるわけです。”規律”に従っていれば、
背が低くても、背が高い人も
成績が悪くても、成績が良い人も
いじめられっ子も、いじめっ子も、
トルコ人も、ドイツ人も、
みんなみんな”等しい”存在なんですね。人種も能力も経歴も関係ない、みんな"仲間"なんですね。ここには”居場所”がちゃんとある。
素晴らしい。ウェイヴ万歳。
これこそが「”平等”という魔力」なんじゃないかなと思います。特に劣等感を抱えている人ほどこの言葉は美しく見えるんじゃないでしょうか。そこで”規律”が人々のあらたな価値基準となることで、集団内における”平等”が達成される。
さて、クラス内の誰かが、誰かに劣等感を覚えるように、国民レベルでこの劣等感が浸透したら?その結果がどうなるか、というのはあくまで大して頭の中の密度の高くない私の憶測でしかありませんし、きっともっと密度の高い人が既に書いてるだろうからこれ以上はしゃべりません。
独裁制は、人々の劣等感という不満を解決する一つの”手段”だったわけであって、それを選んだのは他でもない、何でもない”人々”(この映画では普通の生徒)だったということは忘れちゃいけないかなと思います。
ちょっとしゃべりすぎたし見当違いなこと言ってるかもしれませんが、以上がこの映画を観て考えたことになります。
あ、そうそう。
独裁といえばナチス・ドイツ。ドイツといえばナチス・独裁。後者は流石に怒られるか。
そんな全体主義、独裁制についてはハンナ・アーレントというユダヤ人社会学者の著書が非常に面白いです。
でも死ぬほど難しくて何言ってるかわからないので解説書を読むのがおすすめです。
悪と全体主義 ハンナ・アーレントから考える (NHK出版新書)
- 作者: 仲正昌樹
- 出版社/メーカー: NHK出版
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これなんか最近出たやつでなかなか面白かったので良ければ読んでみてください。
以上。おしまい。