従然草

内容がないようです

「赤頭巾ちゃん気をつけて」【本の話】

 記念すべき2回目の更新です。最初の挨拶だけで更新が止まるような事態だけは避けられました。やったね。

 

今回は本の紹介です。初めての紹介なので私が一番好きな本について語らせていただきます。

 

はい、ドン。

赤頭巾ちゃん気をつけて (新潮文庫)

赤頭巾ちゃん気をつけて (新潮文庫)

 

 庄司薫の「赤頭巾ちゃん気をつけて」です。

 

タイトルはともかく、簡単なあらすじはというと

 

主人公の「薫クン」は日比谷高校に通い、東大を目指していた18歳の男の子!

ところが学生運動(おそらく安田講堂事件。これについてはググってください)のおかげで東大入試が中止になっちゃった!?

近所のママさん達にその話ばっかりされてうんざりしちゃう!!

「これからどうするの?」「京大に行く?」「サンパとミンセーどっちが好き?」

「大丈夫よ!東大だけが大学じゃないんだから!!」

そんなの私もわかんないよ!もう、これから私、どうなっちゃうの~!?

 

なんだこれ。勢いだけで書くと碌なことにならないですね。

 

ちゃんとあらすじを書くとしたら、薫クンは大学入試を控えた日比谷高校3年生で、学生運動の煽りを受けて東大入試が中止になり、それ以外にもちょっとした不運に見舞われて、最高にパッとしない状況の中で自分を見つめ直していく、というお話です。

 

この小説の面白いところが、小説の8割(体感)が主人公の薫クンの語りで構成されているところです。他の登場人物との会話もあるんですが、基本的にというかほとんど薫クンの独白というか自問自答。自問自答に次ぐ自問自答。圧倒的自問自答。だからこそ薫クンの内面がダイレクトに伝わってきて、感情移入しやすいし割とスラスラ読めちゃいます。まあ感情移入できるかどうかは好みがあるのであくまで個人の感想ですが。

 

で、この小説、というより庄司薫を読む際にキーワードとなるのが”若さ”という言葉です。ただまあこれだけじゃありふれた青春小説じゃないかと思われるかもしれませんが、全くその通り。この小説の良さは何といっても一青年の”ありふれた若さ”だと私は思います。

「若さゆえの~」みたいな言葉ってよくありますけど、この作品ほどそれを突き詰めて考えて、その結果「若さゆえの~」なんて簡単な言葉でまとめることができないものを描き出している作品は他にないような気がします。まあ私そこまで読書家じゃないから知らないだけかもしれませんが。

 

薫クンはやっぱりこの若さゆえに苦悩するわけですが、その苦悩が凝縮された私の大好きな部分を引用します。

 

ぼくはいったい何をやっているんだ。どうしてこのぼくは阿波踊りの仲間入りをしてはいけないんだ。気楽にのんびりと、みんなとおんなじに面白いことにジャンジャン手を出して、ガンガンと愚痴や不平を並べたて、文句を言われたらその時のこと、おれはこんなに弱いんだ、だらしない男なんだと同情を誘い、それがだめなら時代のせいだとかなんとか言って開き直って、そしてもしまだ頑張ったりしてるやつがいたらあの手この手で足ひっぱって。ほんとにぼくは何を我慢して頑張っているのだろう?(庄司薫「赤頭巾ちゃん気をつけて」より)

 

ここホントに好きなんです。なんか世の中全部バカみたいに見えて、でもそれに迎合できない自分が一番バカらしくて、「俺はいったい何をやってるんだ?」って気持ちになって、なんか死ぬほどイライラするって経験ありません?そんなん私だけか。

って思ってたけどこの小説を読んで「ああ、俺と似たようなこと考えてるやつがいるんだな」って少しうれしくなりました。これが読書のいいところですね。

 

この「なんで俺がこんな思いせなあかんねん」という気持ちに対して、薫クンがどんな答えを見出すのか、というのがこの小説の肝ですね。

 

どうしようもなくイヤミったらしくてマジメで偽善的で優等生ぶった自分が死ぬほど嫌いな方にお勧めの一冊です。こんなこと言ったら誰も読まんか。

 

ちなみにこの「赤頭巾ちゃん気をつけて」は「薫クンシリーズ四部作」の第一作で、続きがあります。「さよなら快傑黒頭巾」「白鳥の歌なんて聞えない」「ぼくの大好きな青髭」という順番(多分)で続いてくので、気になった方はぜひそちらも読んでみてください。

 

以上。おしまい。